産経ビズ(Sankei biz)の報道
インドとミャンマーの間に位置し、最貧国のイメージが強いバングラデシュで商機が広がっている。日本政府が約6000億円の経済支援を表明するなど、インフラ受注の機会が増えるからだ。背景には南西アジアの安全保障を重視する日本政府の思惑がある。進出している日系企業は直近3年で2倍の約180社に急増し、「チャイナプラスワン」の有力国とみるアパレル業界や、人口1億6000万人の消費市場を狙った業界の動きが活発化。官民の熱い視線が注がれている。
来日したバングラデシュのハシナ首相は26日、安倍晋三首相と首脳会談を行った。安倍首相は今後4~5年で最新鋭の石炭火力発電所(出力120万キロワット)建設や都市整備インフラに約6000億円の経済支援を行うと表明。ハシナ首相は、セミナーなどで「世界経済が冷え込む中で10年以上、年率6%の経済成長が続くバングラデシュの商機は大きい」と述べ、日本からの投資を呼びかけた。
ダッカ大学の調査では、人口の2.7%(410万人)が富裕層で、31.3%(4700万人)が中間層と試算しており、経済成長に伴い、富裕層や中間層がさらに増えるとみられる。日本貿易振興機構(ジェトロ)の河野敬ダッカ事務所長は「親日や安定した経済成長など魅力は大きい。競争が(他の新興国と比べて)少ない点が有利」と話す。来年には、子供と高齢者の数に比べ働く世代が多い「人口ボーナス」期に入る若い国だ。
安価な人件費も魅力
日本企業は、バングラデシュを消費市場や生産拠点としてみる。
年率20%増で成長する化粧品・日用品市場。米ユニリーバが圧倒的シェアを獲得しているが、ロート製薬のリップクリームや洗顔用品は乾燥する冬場には圧倒的なブランド力を発揮する。富士フイルムが代理店経由で販売する高級スキンケア化粧品も好調だ。ホンダ、味の素など市場開拓を狙う企業も相次ぐ。
中国と比べて約5分の1という、バングラデシュの安価な人件費も魅力だ。国内の繊維工場数は、ミャンマーの約28倍にあたる5600カ所とアジアで突出しており、中国に次ぐアパレル輸出国に成長した。中国で労働者の確保が難しくなっている現状もあり、ベトナム、ミャンマー、カンボジアとともに、チャイナプラスワンの進出先として注目される。
既にカジュアル衣料大手「ユニクロ」を展開するファーストリテイリングや伊藤忠商事、ハニーズなどアパレル業界の進出が相次いでいる。09年に進出した子供服メーカーの丸久(徳島県鳴門市)は、生地や染色、縫製までの一貫生産を強みに日本や欧州向けを増産中だ。
こうした中、政府は企業進出のネックになっているバングラデシュのインフラ整備を後押しする。インド洋に面したベンガル湾沿いに超々臨界圧と呼ばれる世界屈指の高効率の石炭火力発電所の建設や、5都市の都市インフラの整備、石炭・液化天然ガス(LNG)基地を含めた広域開発を日本から提案した。
最新鋭石炭火力は、東京電力や東電設計が長年、マスタープラン作りに協力してきた案件で、世界最高効率の環境対応と電力安定供給に貢献する。来年以降の入札には同技術を持つ重電メーカーに加え、東京電力グループ、伊藤忠商事、住友商事、丸紅なども参画に関心を示している。
国際協力機構(JICA)は、4月に同国のエネルギーや電力関連の政府幹部を日本に招聘(しょうへい)。三菱日立パワーシステムズや東芝の工場、超々臨界圧を採用する東電常陸那珂火力発電所を回り、日本の技術をPRした。
経済協力で中国牽制
こうしたバングラデシュへの“大盤振る舞い”の背景には、安倍政権が重視する南西アジアの安全保障がある。中東からのエネルギー輸送ルートを確保するためにも、同国の政情安定が望まれる。
欧米は今年1月の同国の総選挙前の混乱に不信感を強めている。日本政府は「批判の手を緩めない欧米の間隙を突き、中国はチッタゴン港をはじめとするベンガル海域での港湾拡張など軍事力の増強を図っている」(関係者)と中国の動きを警戒する。
日本政府としては、経済協力で中国を牽制(けんせい)したい思惑がある。バングラデシュへの円借款供与額は、首位のインドやベトナムに次ぐ規模に膨らんでおり、「インフラ受注でも台頭する中国勢を巻き返したい」(政府関係者)考えだ。(上原すみ子)引用元ソース:Sankei biz
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